番外編4

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____________ ____ 「2度目は無い」と、言ったのは私だ。 再び罪を犯した私を、誰か全力で糾弾してほしい。 あれだけ気合いを入れていたリベンジデートの前日。 「午前中から出掛けるとして、まずどこへあの男を連れて行こうか」と、忙しなく動く複合機の前で考える。 梓雪は割とフットワークが軽い。干物の私が重すぎるだけかもしれないけど。最近はよく大学時代や以前の会社の陸上部仲間と会う機会も増えていて、キャンプや釣りなど、結構アクティブな遊び方をしている。 そういう最近のあの男の動向を考えた結果、私のスマホの検索履歴の上位には「アウトドア 初心者 場所」というなんとも分かりやすい単語が並ぶ。 天気も良さそうだし、ちょっと遠出しても大丈夫かなと考えて印刷が終わった資料を手にした瞬間だった。 『あ!!保城さん!』 『……はい?』 背後から声をかけてきた課長が、見るからに慌てている。こういう時は大体、嫌な予感しかしない。話を聞きたく無い。無視しても良いだろうかと頭で考えながら、結局「どうしましたか」と笑う。 『ほんっと申し訳ないんだけど、明日休日出勤お願いできる?』 ____ほらやっぱり。聞かなければよかった。 休日出勤するに至った事の顛末は、とてもシンプルだ。 この土日に「先端繊維技術」に関する大きな展示会が東京ビッグサイトにて開催されている。うちの会社も自社の技術や製品を紹介するべく参加していて、そこまでは毎年のことなので何も問題無い。 問題は、そういうイベントごとに必ず関わることになる総務部のことだ。この展示会業務を担当していた総務部の同僚が、まさかの季節外れのインフルエンザになった。 課長の昨日の焦り具合は、代わりに当日動ける人材を確保しなければいけないという理由からだった。 本当に本当に、来たくなかった。でも、代理で駆り出される他の人達の中にほむさんを見つけたら、私は強く拒否ができなかった。 『夜には終わるなら、それこそ先週行けなかったご飯屋行くか。紬が疲れてないなら』 苦しい声で語る私に、やっぱりあの男は柔らかい声で別の提案をくれる。 怒りの感情は1ミリも無い。スマホを握る手に力がこもった。 『…梓雪、』 『なに?紬、課長殴んないよーにね』 『……なんでもない。それは、善処する』 本当に、怒ってない? ____もしかして、もう、 いつもの展開に呆れて、諦めてる?
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