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"どうしよう。他で挽回したいって、ほむさんには誓ったけれど。私は他に、梓雪にしてあげられることはあるのかな"
「……梓雪、前に、ほむさんにもヤキモチやいてた」
「…だから俺、全然心広くないって」
お饅頭を一箱お土産で貰った時だった。誰から貰ったのと、気まずそうに時間差で確認されたことを思い出した。
今日も同じ顔をしていて、その表情さえ愛しい。私の褒め言葉で良心が痛んでいたところまで、可愛い。ふわふわと湧いてくる感情の全部で、自分がどれだけ梓雪のことが好きか自覚する。
ふと微笑んで「よかった」と思わず呟いてしまった。
「なにが」
だって、ちょっとくらい梓雪の弱点も知らないと、挽回の仕様も無い。私にできることを考えて、意を決して再び口を開く。
「梓雪。私、このスニーカー履くと元気が出る」
「…やっぱ紬はその形と色、よく似合う」
「軽くて、可愛くて、凄く走れそうな気がする」
「そっか」
「気がするだけだけど」と梓雪の腕の中で続けると、「紬、足遅いもんな」と揶揄われたので背中を軽くつねった。
「……でも、これ履いて、全力で走って会いに行きたいのは梓雪しかいないよ」
これからも絶対、そうだから。
だから安心して欲しいと伝えた瞬間に、また掠めるようなキスを受ける。視線が交わると、頬に笑みを乗せた梓雪が私の頬を擽るように撫でた。
「安心は出来ないな」
「なんでよ」
「紬は隙が多い。だから俺みたいなのに捕まるんだよ」
なんだ、それ。
…そんな風に言われたら私はとっくに「隙があってよかった」って思ってしまうんだよ。
抱き締められていて顔の赤さはバレなくて済むから、やけになってその気持ちも伝える。時間差で、梓雪が「あー」と呻き声のような、よく分からない声を発しつつ、両腕で私を強く掻き抱いた。
この温もりを失うことは考えられない。
私は梓雪みたいに広い心も、するすると本音を引きずり出してくれる優しさも、持ち合わせないから。
ほむさんが言ってくれたみたいに、沢山、他で挽回して、大切にして、梓雪の隣にずっと居たいと心から思った。
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