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昨日とあるネットへの書き込みを見たのですが、そこにあった『聴覚に障害を持つ子供と関わる教育関係者』の意見がとても気になりました……。
要約すると。
「聴者が多数を占める社会で生きて行く為には音声言語が必要不可欠である……なので初等部の教育においては口話教育を重要視して進めるべきである」
「手話言語だけで育った聴覚障害者は聴者に比べると平均的な学力が低い傾向にある……この事から、手話のみの教育をしていては児童の学力低下を防ぐ事が出来ない」
と言った内容だったのですが、私が聾学校の初等部を卒業してから二十数年が経った今でもまだ。
「日本手話と音声日本語は文法も成り立ちも全く違う言語なんです」
「授業は子供達が理解しやすい言葉でやってあげてください」
この二つの簡単な要望を理解して下さらない方が教鞭を握り、子供達に無理を強いる授業を続けている事が残念でなりません……。
音の無い世界を経験していないから理解出来ないのでしょうか……。
子供がどんな想いで学校へ来ているのか、その気持ちを想像する事を放棄してしまったから教育理念が変わらないのでしょうか……。
そんな人達に、いったいどう説明すれば分かって頂けるのでしょう……。
今まで多くの方がホームページを立ち上げたり、ツイッターで呟いたり、動画を投稿されたりと、色々な方法を試してみても一向に減る気配のない『口話教育信仰』……。
頑なな考えに心を支配されている先生にも伝わりやすい『例え話』を書いてみますので、少しだけでもいいので自分の子供時代に当てはめて想像してみてください。
あなたは『Юω語 (※注1)』が主流の世界に生まれた子供です。
周りの人は大人も子供も皆『Юω語』を話し、本や看板など、街中に溢れる文字も全て『Юω語』で書かれています。
そんな世界で、あなたは両親が話す『日本語』だけで育てられ、六歳にまで成長しました。
当然あなたは『日本語』しか話せず、『日本語』の平仮名しか読めず、何かを考える時も頭の中には『日本語』しか思い浮かびません。
それでも、家の中で両親と暮らしている間は何の問題も起きませんでした。
何故なら、両親には自分の欲しい物や食べたい物を伝える事も、嫌いな物や嫌な事を伝える事も出来ますし、お母さんに絵本を読んでもらう事も、自分でゆっくりと読む事も出来るのですから。
やがて家庭内で教わる事よりも高度な教育を受ける為、学校と言う場所に行く準備が始まります。
でも、あなたは『Юω語』が分からないので地元の学校に通う事は出来ません。
そこであなたは、この世界では少人数ですけど『日本語』だけを話す子供達を集めた『日本語学校』へと通う事になりました。
自分の周りには一人も居なかった『日本語』を話すお友達がいっぱい出来る!
お家では教えてもらえなかった難しい事も『日本語』でいっぱいいっぱい教えてもらえる!
あなたは期待に胸を膨らませて日本語学校へと通い始めました。
でも……。
先生は皆『Юω語』を使い、決して『日本語』を使おうとはしてくれませんでした……。
渡された教科書は国語も算数も社会科も……理科も音楽も全部『Юω語』で書かれている為、たった一つの単語でさえも読めません……。
どうしていいのか分からず戸惑う子供達の姿を見ても、先生は『Юω語』だけを使い続け、頑なに『日本語』を使おうとはしません……。
あなたは訳の分からない環境に戸惑い、苦しみ……。
『日本語』が通じるお友達と慰め合いながら必死に耐え、学校へと通い続けます。
でも、先生はそれが気に入らないようです……。
授業中はおろか休み時間でさえ、お友達と『日本語』で話している所を見つかると、凄い表情で怒ってきます……。
それどころか、子供達に『日本語』を使う事を禁じる『日本語禁止令』なる愚かな規則まで作ってきました……。
あなたが理解する、しないに関係なく『Юω語』だけが使われる授業が延々と続きます。
何日も……。
何週間も……。
何か月も……。
子供達が分かる日本語を交え
「日本語の『りんご』は、Юω語では『◇∴彡』と言います」
と教えてもらえれば理解できる内容でも
「¶‡⇔≪⊿■\〕┗◇∴彡」
のように全てが『Юω語』だと、言葉の説明をしている部分でさえ理解できません。
あなたは先生に見つからないように気を付けながら、お友達と分からない箇所を教え合い、慰め合い『Юω語』を覚えようと努力をします。
長い長い月日を掛け、何とか『Юω語』を覚えられたとしても、初めて聞く単語や難しい単語が出てくると理解できません。
「今の単語の意味を教えてください」
そう質問をしても、『Юω語』で説明をされるので分る筈がありません。
答えを聞いた後に「分かりません」と何度も聞き返すと、先生が怒りの表情へと変わっていきます……。
次第にあなたは先生に聞き返す事を諦めるようになります。
分からない事でも『先生の授業で知識が増えたフリ』を……。
すべてが『理解できたフリ』をして、笑顔を作り頷くようになります……。
そうしておけば、先生は『自分の教え方が正しかった』と……。
そう勘違いをして機嫌が良くなるのですから……。
お友達の中には卒業するまで『Юω語』を覚えられなかった子も多くいました。
たとえ覚えられたとしても『Юω語』で示される言葉や文字を頭の中で一旦『日本語』に訳し……。
『日本語』で考えて導き出した答えを『Юω語』に訳してから答える……。
全ての授業が絶えずその繰り返しになり、集中力が強いられる為に『Юω語』が大嫌いになる子もいました。
やがて先生は、正しい筈の『教育理念』が成果を上げない事に苛立ちを見せます。
『Юω語』での受け答えに時間が掛かる事が気に入らないのか、先生は幼稚園で使うような簡単な本を差し出してきます。
「はこのなかにみかんが3こ、りんごが2こ、ぜんぶでくだものは、なんこありますか?」
『日本語』で書かれていればすぐに答える事ができます。
「バカにしないでください」と怒る事も出来ます……。
でも、問題文の全てが『Юω語』で書かれていたらどうでしょうか?
えっと『§ЖⅢ』がみかんって意味で『◇∴彡』がりんごだから……。
って『日本語』に訳す時間が必要ですよね?
なのに、時間が掛かった理由も考えずに
「こんな簡単な問題も解けないなんて……学力が低いのは『日本語』だけで育ったからだ」
「やはり『Юω語』だけを使った教育をするのがこの子達の為なんだ」
なんて結論になって力説されたらどんな気持ちになりますか?
それでも
「『Юω語』と『日本語』は全く違う言語なんです」
「子供達の分かる言葉で授業をしてあげてください」
そんな感情を持つのは間違ってると思いますか?
子供達の気持ちなど関係なく、使っている人数の多い『Юω語』で教育をするべきだと考えますか?
ここまでお読み頂き、自分が体験した事だと想像されても尚
「手話教育は必要ない」
「口話教育だけで教育するべき」
と言った考えが変わらない先生方に一つ『生まれつき聞こえない子供』や『親御さん』を納得させる簡単な方法を提案致します。
手話を第一言語としている子供が『口話』を覚える事なんて簡単な事だと……。
聞こえないけれど『口話』を使いこなし、完璧な『発音』をする事なんか、誰にでも出来る容易な事だと……。
先生自らが『お手本』を示してくだされば良いんですよ。
方法は簡単です。
まずアフリカ大陸の地図を用意して、目隠しで適当な場所を指さします。
全く知らない、聞いた事もない名前の国だったとしても構いません。
次に、その国の『一度も見た事のない文字』で書かれている全教科の教科書と、その国の人が映っている『音声の無い画像』をお取り寄せしてください。
当然の事ですけど、どの教科の、どのページを開いてみても一文字も読めませんけど気にしないでください。
映像も、何を言ってるのか、何の説明なのかも分かりませんけど問題ありません。
さぁ、準備が整いましたので『視覚』だけで『全く未知の別言語』を習得する事が簡単な証明を始めましょう。
まずは音の無い『お口をパクパク動かしている映像』を見るだけで、その国の言語を理解してみてください。
一度も聞いた事の無い言語を『お口をパクパク動かしている映像』を見るだけで、意味を、発音を、イントネーションを覚えてみてください。
分からない事があって悩んだとしても、涙が溢れるほど苦しんだとしても『日本語』が通じる人を探したりしないで『お口をパクパク動かしている映像』を見るだけで解決してみてください。
教科書のどの部分を読んでいるのかさえ分からない状態で、一度も見た事の無い文字の意味を理解し、組み合わせを理解し、文章を書いてみてください。
どの文字がどんな音なのかも分からない状態で、書かれている内容をスラスラと読んでみてください。
『お口をパクパク動かしている映像』に対して、その質問の内容を理解し、答えを完璧な発音で言ってみてください。
幼い子供達に強いている授業の内容なのですから、大人である先生方には『これ以上ないくらい簡単な事』だと思います。
是非とも証明してくださる事を願っております。
追記……。
※注1
『Юω語』とは?
生まれつき耳が聞こえず『声』を知らない者にとって『音声言語』とは、発音も、意味も、何も分からない『ただの記号』として目に映ります。
それを『音を知っている聴者』に想像して頂くための『架空の言語』です。
英語やフランス語など、実在する言語を例として使うと
「あぁ~、それ知ってる」
「意外と簡単に覚えられたよ」
などと感じられる方もおられると思いますので、文章を読まれた方の誰一人として、発音も、読み方も、存在さえも知らない『未知の言語』として『Юω語』と表記させて頂きました。
分かりにくい表現となってしまった事、申し訳ありませんでした。
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