発表会の日は雨だった

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「今年は生憎の雨で残念だったね」 「いいんです! わたしは雨の方が嬉しいからラッキーです」 「え、そうなの? だって一昨年の大雨のときは嫌だって大騒ぎしてたじゃん」 「今年はいいんです! 今年は『水の(たわむ)れ』を弾くんですよ。この曲、雨の日の方が調子がいいんだから」  ほう、響子ちゃんの今年の曲は『水の戯れ』か。  『水の戯れ』はフランスの作曲家のラヴェルが書いた、五分ほどの美しい小品だ。  隙間なく敷き詰められた細かい音符がキラキラと上下して、まさに水の流れを耳で感じることができる名曲だと思う。  この曲は噴水の様子を描いていると言われているけれど、雨の日の方が調子よく弾けるという響子ちゃんの感覚はわかる気がする。  「じゃあ、雨の日の『水の戯れ』を楽しみにしておくよ」  彼女は頑張りまーすと言い残して、ガラガラと控室に向かって行った。
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