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目を開けるとそこは、先ほどまで飲んでいた居酒屋で。私は突っ伏していたテーブルからゆっくり顔を上げた。
一緒に飲んでいた同僚三人のうち、二人はもう帰っていて、正面には先月入社したばかりの新人君、水原がただ一人、所在なく座って、枝豆を食べていた。
「ごめん――」
恥ずかしさと申し訳なさの混ざった言葉は、さっきまで見ていた夢と同じになってしまった。
「いえ、全然」
水原はにっこりと首を振る。
「残業続きだったから、真木先輩疲れてたんですよ。僕はひとりでのんびり好きなもの食べてたんで、気にしないでください」
広告代理店に入社して十年目。大きな仕事が片付くと、こうやって同僚と飲むのが定番になっているのだが、やはり彼の言う通り、今日は疲れがたまっていたのだろう。
「他の二人は終電早いもんね。先に帰ってくれてよかった」
優しい同僚と後輩は、酎ハイを一杯半ほど飲んだだけで眠ってしまった私を、起こさずにおいてくれたらしい。どれくらいの時間、ここで眠っていたのだろうか。訊くのがちょっと怖かった。
「雪が本降りになりそうだから、早めに帰るそうです。真木先輩を頼むって言われて、快く引き受けました。僕は歩いて帰れますから」
「ほんと、ごめん。……って、さっきの小雨、雪になったの?」
「はい。外は雪です。雪の予報は明日だったのに」
私の中に、再びあの白い世界がひんやりと浮かび上がった。
夢なのに、幼いあの日の罪悪感は鮮烈で、今も、この胸の中を冷やしている。
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