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「なにか、悲しい夢を見てたんですか?」
水原は枝豆をつまんだまま、私に訊いて来た。
「え、なんで?」
「ごめんね、って、言ってたから」
恥ずかしくて顔が火照ったが、彼は、柔らかな表情のままだ。
一人ぼっちで先輩のお守りをさせられた後輩の質問くらい、答えてあげなければと思った。
「ハナジロさんの夢を見てたの」
「ハナジロさん?」
水原は枝豆をひと粒、さやからこぼした。
「うん。九歳くらいの時に、仲良くなったタヌキ。鼻が他のタヌキよりもちょっと白くて、ちょっと毛並みが悪かったけど、愛嬌のある顔をしてたの」
「あ、はい」
後輩は目を丸くしたまま、こっちをじっと見た。
「私、小学校を卒業するまで、ものすごく田舎の祖父の家にいたの。周りは農家ばかりで、冬になると男の人は、イノシシやシカを撃ちに行くの。祖父が亡くなってからは、もうずいぶん行ってないけど、……今も変わってないのかな、あの村は」
「その村で、先輩はタヌキと仲良くなったんですか?」
水原は、また真っ直ぐ訊いて来る。からかうような、そんなそぶりは少しも無かった。
「うん。そう。仲良くなっちゃった。……仲良くなんて、なっちゃいけないのに」
「どうしてですか?」
「村では、タヌキは畑の作物を荒らす害獣なの。だから、人里に出て来たタヌキは、猟師に駆除されてしまうの」
「ああ……」
察したように、水原はほんの少し体を引いた。
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