近衛

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近衛

食人願望者 人の肉を食べてみたいのです。 ──そうは言っていますが、実は食べたことあるんですよ。 もうほとんど憶えておりませんが、あまり美味しくはなかったような気がします。 戦の時の話です。僕はどこかの島に送られて、そこで敵国の兵士と戦わされていました。何人殺したのかも何人殺されたのかも、今はもう憶えていないのですが、確かに僕は靖国へ行く一歩手前だったと思います。 仲間の殆どがいなくなって、もうこれは負けるのだと思っていたある日。根城にしていた壕の中に、爆弾が放り込まれまして。仲間はみんな死にました。僕も死にました。 ……死んだと思ったのですが、どうやら僕だけ生き残ってしまったようなのです。崩れた土砂で出口は塞がり、備蓄もほんの僅か。敵も全滅したと思い込んだのか、そもそも誰もいないと思っていたのか、何も確認せずそのまま去ってしまった。 いっそそのまま死んでいたらよかったのにと、何度も思いました。しかし自決しようにも覚悟が足りず。僕はそのまま何日も何日も仲間の死体に囲まれて、誰かに助けてもらえるのを待っていました。 人の肉を食べたのはその時です。食料も尽きて、ただ餓死するのを待つしかなくなって、僕は狂っていたのでしょう。腐りゆく仲間の死体を、勿体無いと思ってしまったのです。 ──美味しくはなかったですね。味なんて気にしてる余裕もなかったのですが。生き延びるためなのだと言い聞かせて、僕は仲間を喰いました。 助け出された時にはもう戦は終わっていました。極度のストレスで髪も真っ白になってしまいましたし、仲間の死体を傷付けたことも錯乱状態にあったということで厳しく罰されることはありませんでした。 僕は人肉を食べたことがあり、その経験はトラウマにもなっている。では、どうしてもう一度食べてみたいと思うのでしょう。 それはおそらく、次こそは味を覚えていたいから、なのでしょうね。 ──貴方は僕を可哀想だと思いますか?
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