月野

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月野

違法賭博者 おれの家は昔っから貧乏でな。5人兄弟の一番下に生まれちまったもんだから、毎日毎日死ぬか生きるかの瀬戸際だったな。親父はロクに働かないし、お袋も大した稼ぎはなくってね。そのうち一番上の兄貴が家出しちまって、そんでさらに火事に巻き込まれて全財産失って、本当にもう……笑えるくらい地獄だったね。このままじゃ一家全員飢え死ぬぞってなって、ついにおれは売られることになったのさ。あー、10歳くらいの時だったかねえ。 あの時代、貧困のために売られるのは主に女だったから、おれはなかなか買い手がつかなくてなあ。ようやく買い手がついたのは2年後くらいだったかな。おれは労働力として買われたのさ……具体的な話は、うーん、また今度な。 奴隷みたいな扱いを受けたりもしたが、おれにとってはこっちの方がよっぽど天国だったよ。実家にいる頃より飯が食えたんだ。せっかく買った餓鬼が飢え死んでもらっちゃ困るんだろ、きっと。金は貰えねえが飯は出る。それだけで十分幸せだったような気がするなあ。 金の味を知ったのは随分後になってからだな。ハタチ超えて、もう一人で生きていけるようになって、おれは奴隷から人間になった。成人の祝いとして、仲間に賭博場に連れてってもらったのが始まりだよ。おれはそこで金のにおいを初めて嗅いだ。汚ねえ金だったが、それはもう本当にいいにおいだったのさ! それまで金なんてほとんど触ったことなかったしよ、金を手に入れるってのはこんなに気持ちのいいものなんだって興奮したのを今でも鮮明に覚えてるよ……。 それからおれは賭博場に入り浸るようになって、イカサマも覚えて、どうにか金を触りたかった。──違法だってのは知っちゃいたが、そんなのどうでもよかった。金が欲しい、金がありゃもう飢えることもねえ、って思ってるうちに金が飯に見えるようになってきてよ。おれもとうとう狂っちまったかと大笑いしたもんだ。 はじめは飯のために金を稼ごうとしてたんだが、そのうち目的と手段が入れ替わった。金がありゃ飯なんてなくたって生きていける。おれは飯よりも金がほしい! おれはおれが生きるために、賭博に命を賭けるんだ。つまんねえ話だろ。
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