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鶴野
ヒモ飼い
「今日の夕食代として置いておきます。あんまりなくてごめんね」
『悪い、競馬で負けちまった。金貸してくれ』
「今日の夕食代と、生活費。一緒に置いておきます。仕事が忙しくていつも一緒にいてあげられなくてごめんね」
『悪い、田舎から友人が上京することになって、祝いの席を設けてやりたい。少しでいいから金貸してくれ』
「ここに置いておきます。お友達にお腹いっぱい食べさせてあげてくださいね」
『悪い、仕事クビになっちまった』
「生活費、置いておきます。早くお仕事見つかるといいね」
『悪い、スられた。本当に悪い。顔を見て謝りたい』
「ごめんね、僕も会いたいよ。お金は少し待っていてください」
『早くしろ』
「ごめんなさい」
『俺には◼️◼️◼️しかいないんだよ。俺の味方はお前だけだ。早くお前に会いたい』
「僕もだよ。今度お休みが取れそうだから、一緒にどこか旅行へ行こうね。お金はもう少し待ってください、ごめんなさい」
『お前俺が嫌いなんだな? 俺に死んでほしいのか?』
「ごめんなさい。どうにか工面してます。待っててください」
『早くしないと俺は死ぬからな』
その書き置きを半分に引き裂いて、ぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に放り投げた。
毎日死にものぐるいで働いて稼いだ金が、あっさりと奪われていく。将来のために取っておいたへそくりも見つかって奪われた。僕が何日もパンの耳しか食べていないことを、あの人は知らない。
でも、それが気持ちいいと思う僕は多分狂っている。
あの人が生きてゆけるのは僕がいるからだ。僕がいなかったらあの人は死んでしまうのだ。
───とっても愛されているよね。
あの人が僕を求めている。あの人は僕を愛してくれてる。こんなにも幸せなことってあるかしら。愛されるって、なんて素敵!
今日の手紙にはなんて書こうかな。
もっとあの人が僕を見てくれますように、あの人がもっと僕に縛られてくれますように。そんな願いを込めて、返事を考える。
「お金が用意できました。これからも困ったときはいつでも僕を頼ってね。僕はずっと貴方の味方だよ」
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