鶴野

1/1
前へ
/11ページ
次へ

鶴野

ヒモ飼い 「今日の夕食代として置いておきます。あんまりなくてごめんね」 『悪い、競馬で負けちまった。金貸してくれ』 「今日の夕食代と、生活費。一緒に置いておきます。仕事が忙しくていつも一緒にいてあげられなくてごめんね」 『悪い、田舎から友人が上京することになって、祝いの席を設けてやりたい。少しでいいから金貸してくれ』 「ここに置いておきます。お友達にお腹いっぱい食べさせてあげてくださいね」 『悪い、仕事クビになっちまった』 「生活費、置いておきます。早くお仕事見つかるといいね」 『悪い、スられた。本当に悪い。顔を見て謝りたい』 「ごめんね、僕も会いたいよ。お金は少し待っていてください」 『早くしろ』 「ごめんなさい」 『俺には◼️◼️◼️しかいないんだよ。俺の味方はお前だけだ。早くお前に会いたい』 「僕もだよ。今度お休みが取れそうだから、一緒にどこか旅行へ行こうね。お金はもう少し待ってください、ごめんなさい」 『お前俺が嫌いなんだな? 俺に死んでほしいのか?』 「ごめんなさい。どうにか工面してます。待っててください」 『早くしないと俺は死ぬからな』 その書き置きを半分に引き裂いて、ぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に放り投げた。 毎日死にものぐるいで働いて稼いだ金が、あっさりと奪われていく。将来のために取っておいたへそくりも見つかって奪われた。僕が何日もパンの耳しか食べていないことを、あの人は知らない。 でも、それが気持ちいいと思う僕は多分狂っている。 あの人が生きてゆけるのは僕がいるからだ。僕がいなかったらあの人は死んでしまうのだ。 ───とっても愛されているよね。 あの人が僕を求めている。あの人は僕を愛してくれてる。こんなにも幸せなことってあるかしら。愛されるって、なんて素敵! 今日の手紙にはなんて書こうかな。 もっとあの人が僕を見てくれますように、あの人がもっと僕に縛られてくれますように。そんな願いを込めて、返事を考える。 「お金が用意できました。これからも困ったときはいつでも僕を頼ってね。僕はずっと貴方の味方だよ」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加