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樋口
自傷癖
わたしは人間です。心臓があって、骨があって、肉があって、脳があって、血があって、その他いろいろと。
わたしの父も母も人間です。友人も、先生も、上司も、テレビに映る知らない人も、みんな同じ人間です。生まれる前から人間で、きっと死んだあともずっと人間です。この地球に生きる数えきれないほどの人間の中の一人です。
──なんて、一体誰が証明できるのでしょう?
わたしが人間であることを、誰が証明できるというのでしょう。わたしでさえ自分が人間であると断言できる術を持っていないのです。自分でできないのですから、他の誰にだってできないでしょう。
わたしは自分が人間だとは思いません。いえ、人間であることはわかっているのですが、時折疑問に思うのです。わたしは本当に人間なのか? ヒトの形をとっただけの別の生き物なのではないか? もはや生き物でさえないのでは?
こんな風に思うのって、わたしだけなんでしょうかね。もし自分が本当は醜い獣で、自分さえそれを知らないで生きているのかもしれないって……。そう考えると、とても怖くなります。首を絞められてるかのように胸が痛くなります。
そこでわたしは自分が人間であることの確認のために、血を見ることにしました! 自分に血が流れていれば、少なくとも生き物であると断言できる。前に見た血と変わっていなければ、前の自分と同じだと断言できる。人間であることの確固たる証拠にはなり得ませんが、化け物ではないことの証明にはなります。
最初の頃はもちろん痛かったですよ。痛いのは嫌いです。でも、自分で斬った腕から赤い液体が流れ出るのを見て安心すると、それが気持ちよくなってくるのです。恐怖より安心を得たい気持ちが勝つようになると、自分を傷つけることなんて痛くも怖くもなくなる。
いつかわたしが死んでしまったら……。貴方。わたしのからだを開いて、わたしが本当に人間だったか確かめてくれませんか?
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