遊佐

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遊佐

女衒 薄汚い路地裏で、黒のスーツに身を固めた男たちがたむろしている。それぞれ好みの質の悪い煙草を喫みながら、下卑た笑い声を上げる。遊佐はそれを少し離れたところから見ていた。 「なあ、遊佐さんはどう思う?」 若い男たちが一斉に遊佐を振り返る。吐き出された紫煙が白く烟る。 「何の話だよ」 「遊びの話っすよ。人生で一番の娯楽って結局何だろうなって話になって。遊佐さんはどうすか? 何が一番楽しいすか」 一番若いのが妙に親しげに話しかけてきたのを鼻で嗤う。人生で何が楽しいかなんて青臭いことを。こんな汚い街にいるのに、まだ夢を見れるのか。遊佐は煙草の味を愉しみながら、なんて答えてやろうかと少し考えた。 「仕事」 その答えに、男は素っ頓狂な声を上げる。 「はァ? こんなつまんねー仕事の何が楽しいんすか!?」 遊佐は何も答えない。薄く笑みを浮かべながら、煙草を燻らせているだけだ。その無言に気圧されたのか、男は気不味そうに口籠もった。 「あ、いや、いいっす、なんでもないっす」 それで話は終わりだという風に、男は仲間たちの輪に戻っていった。ちらちらと遊佐の様子を盗み見ながらも、それ以上話しかけてくることはなかった。 この仕事の楽しさがわからないなんて、勿体無い奴だ。遊佐は煙草を地面に落として踏みつぶした。 位の高い男どもが女に狂っていく様を間近で見れるというのに、何がつまらないというのだ。一言唆すだけで、男は簡単に転げ落ちていく。なんて愉快な玩具だ。自分よりいい仕事に就いてる奴も、美味い飯を食ってる奴も、温かい寝床で寝ることができる奴も、みんな女に弄ばれて捨てられていく。たった一言で知らない男どもの人生を滅茶苦茶にできるのが、たまらなく楽しい。 遊佐は女衒をやめられない。それが罪だと知っていても、最高の娯楽を享受するために、遊佐は男の耳元で囁く。
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