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わしが数日空けて再びタカシの部屋を訪れたとき、そこは鉄さびのような匂いで満たされていた。
「ふうむ。こうなったか」
ベッドの上で冷たくなっているタカシと、その返り血にまみれてすすり泣く女を睥睨して溜息を吐く。
「まあ、おおよそ他者への想像力に欠ける男であったからのう」
タカシは己の犯す罪をこそ恐れておったが、金を盗られる者、殺される者、姿を奪われ犯される者に対してなにかを思ったりはまったくしなかった。
ゆえに罪の自覚も犯行の発覚もしにくい手軽な手段を与えた。煽るとつたなくよちよちと踊るさまが愛らしく、まあまあ気に入っておったのだがのう。
他者を慮ることはできずとも、僅かでも想像できておればもう少し遊べたであろうが、やはり浅薄な者は長持ちせん。
今は亡き眷属に想いを馳せておると、足元で涙と鼻水と涎で顔をぐしゃぐしゃにしておった女がのろりとこちらを見あげた。うりふたつの顔同士が向かい合う。
ボロボロに泣き崩れた見上げる女と傲岸不遜に見下ろす女の顔は同じ造詣でありながらさぞかし対照的であろうと思い至ると自然に笑みがこぼれる。この光景を見る者が無いのが惜しまれる。
「これ、わしの顔でそのような情けない顔をするでないぞ。せっかく上手く作ってやったというに」
この顔を認識した女が驚愕に目を見開き、ついでその言葉に憎悪を滾らせる。
跳ね上がるように立ち上がり手にしていた包丁をわしの腹へと突き立てて臓腑を抉った。
体力も限界近かろうに、怒りに火をくべてやれば非力なただの女がこれだけ動けるのだから人間は愉快よな。
「お、おま……おまえがっ! おまえが私を!」
「うむ、かはっ。わしが汝をその姿に……変えた」
なるほどタカシからわしの話を聞かされたのであろう。監禁と凌辱に砕かれ一度は絶望した心を強い怒りで焼き固めた憎悪が心地良い。
「どうして! 私ばっかり!こんな目に!!」
力任せに二度、三度、四度と凶刃を根元まで突き立てる。
怒りに狂ったその表情が愛おしく、柄にもなく優しい気持ちで見守ってしまう。
「よいよい……存分に、ごぼっ……振るうがよい、ぞ」
幾度となく刺されて腹と口からたっぷり血をまき散らすわしに恐れをなした女が、とうとう包丁をわしに刺し残したまま後ずさった。あるいは血糊で手が滑って抜けなかっただけやもしれぬが。
「なに、なんなの……そんな、刺さってるのに……何度も……」
良いのう。こういう初心な反応はいつ見ても心が躍る。
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