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「何泣いてんだ?…中村?」
すっかり大人びた美人に成長した京ちゃんが、東京の夜景をバックに俺の顔を覗き込んでいた。
そうだ、先に風呂を借りて上がった後、京ちゃんを待ってたら眠くなって……。
ソファの上でそのまま眠ってしまっていたらしい。
夢を見ていた。京ちゃんとの、最後の夜。
「俺、セックスが好きなんじゃないよ」
寝起きの掠れた声でそう呟いた。何をいきなり、と言いたげな京ちゃんは怪訝そうな顔をしつつも指先で涙を拭い、俺の言葉を待ってくれる。
「…や、セックスは好きだけど。俺、お前が好きなんだ」
「……え?」
京ちゃんは目を丸くした。
「京ちゃんが好きで、この四年間ずっと忘れられなかった」
「…卒業式の日にあんた、自分が何言ったか覚えてんのか」
「えっと…」
「セフレでいたい、って。そう言ったんだ」
「それを京ちゃんが拒否したんだろ」
「当たり前だ!…俺も好きだったんだよ!」
今度は俺が目を丸くする番だった。
混乱で京ちゃんの言葉を半分も理解できていないまま、鼓動だけがどくどく早まっていく。
「セフレなんて卒業でやめてやるって、ずっと考えてた。……ちゃんと伝えて、恋人になろうって思ってたんだよ……なのにあんた、今日で終わりって……!」
京ちゃんの目から、涙が零れ落ちた。
それに呼応するように鼻の奥がツンと痛くなって、俺は京ちゃんを強く強く抱きしめた。
「もう嫌いになっちゃった……?今の俺、色んな人と寝てるし……」
「好き。大好きだよ京ちゃん」
京ちゃんの柔らかな髪を撫で、それから少し離して涙と鼻水でぐしょぐしょなのに相変わらず綺麗な顔を至近距離で見つめる。
ずっと会いたかったんだ。あんなにも忘れようとしてたくせに、再会したあの瞬間に呆気なく再燃してしまった。
「ね、京ちゃんは?」
「好きだ」
俺たちは泣き笑いの表情で唇を重ねた。
「ずっと好きだ、幸人」
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