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「おー…どっかのモデルさんかと思った」 「ご無沙汰してます、ユズさん」 京ちゃんは礼儀正しく頭を下げた。 肩上の辺りまで伸ばされた緩いウェーブの茶髪がさらさらと落ちて、隣にいた俺はほとんど無意識でその髪を元の通り耳にかけてやった。 「や〜懐かしいな。高校の卒業式の次の日だっけ?ユキが泣きながらうちに来たの。『けーちゃんの連絡先知らない!?』って」 「やーめーろ、(ゆずり)。まじで」 「本当のことだろ。…あとお前こそ、その威嚇みたいな表情やめてくれる?」 「ふん、成人した京ちゃんを魔の手から守れるのは俺だけだからな」 (ゆずり)のことは信用しているけれど、京ちゃんに関係することとなればその限りではない。 少なくとも京ちゃんを抱いた前科があるんだから。 「魔の手って…そもそも君らがそうなったのは、俺のおかげでは?」 「ユズさんの言う通りだ、幸人(ゆきひと)。あんま困らせんな」 京ちゃんまで(ゆずり)の味方につくものだから不満げに唇を尖らせると、京ちゃんはこれ見よがしにキスをしてきた。 俺は一瞬あっけに取られ、それから唇を軽く噛んでにやけるのを我慢した。 「おい、別にお前らのイチャイチャを見たくて呼んだわけじゃないぞ。そういうのは二人っきりでやってくれ」 「えー!」 「えーじゃない。俺は久々に京くんの元気そうな顔を見たかっただけだよ。解散だ解散」 (ゆずり)は「また二人でいつでも遊びに来いよ」と付け足すと、結局俺たちを一歩たりとも家に上げないまま外に追い出した。 「呼びつけておいて玄関でUターンかよ。なんかごめんな、京ちゃん」 「いいや、全然」 もと来た道を、京ちゃんとゆっくり引き返す。 隣に京ちゃんが歩いているのが未だに信じられず、落ち着きもなくちらちらと見上げてしまう。 「…今更だけど俺、ほんと酷いことしたよな。…悪かったって思うし、でも同じくらい…嬉しい」 京ちゃんは言葉を選ぶようにしてそう言った。 「俺だってそうだよ。俺のこと考えるのが辛いから、こんなにも徹底的に消息を絶ってたんでしょ。京ちゃんほんと、俺のこと好きすぎでしょ」
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