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それから京ちゃんはあのタワーマンションを出て、俺と一緒に賃貸マンションの一室で暮らし始めた。
今、彼は元々の本業であるヘアスタイリストとして美容院で働いている。
「それにしたって、いったい何したらこんなに貯まるんだ…?」
俺は京ちゃんの通帳を凝視する。よっぽど派手に散財しなければ、一生とは言わないまでも30年くらいは暮らしていけそうな貯金額だ。
「美容師らしいこともたまにはしてたけど、やっぱ体売るのが一番稼げたな。一晩で二十万貰ってたし」
「にじゅ…」
でも京ちゃん相手にそれだけの金を払う価値があることは分かる。
甘えるように京ちゃんをぎゅっと抱きしめると、「もう二度としねぇよ」と頭を撫で、それから手癖のように俺の耳のガチャガチャしたピアスを触る。
「お前、俺のピアスほんと好きだな」
「ピアスないとなんか地味だからな」
「……高校の時も言われた気がする。確か修学旅行で、たまたま外してた時」
「あ、これ。俺があんたにやったやつ」
ちっとも話を聞いてない京ちゃんは、そう言ってピアスの一つに触れた。
「おー。覚えてくれてた?気に入ってんだよそれ」
高校の卒業間近、三月の誕生日に贈られたものだ。
今思えばアクセサリーをプレゼントするあたり、多分お互いに単なる友達とかセフレの域は超えていたんだろうなと思う。当時はそんなこと考えもしなかったけど。
「またくれよ、ピアス。京ちゃんセンスいいもん」
「ピアスでいいのか」
「へ?」
京ちゃんはずいっと顔を寄せてきた。
そのあまりにも端正な顔立ちに、真昼間だというのに変な気を起こしそうになる。
「指輪、ほしくねぇ?」
そう言ってにっこり微笑む京ちゃんは世界一綺麗だと断言する。
「…欲しい。生涯、京ちゃんの隣は俺がいい」
「当然だ」
そのまま唇を重ねられた。
今までで一番幸せな日だ。けれどその一番はきっと、毎日のように更新されていくのだろう。
だって京ちゃんと一緒だから。
多分、これからもずっと。
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