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「タワマン最上階って…間違っても22歳が一人暮らしするとこじゃねーだろ!」 随分と長いことエレベーターで上昇し、どこぞの高級ホテルかと思うようなカーペット張りの廊下を少し歩けば、すぐに京ちゃんの住居のドアが見えてきた。慣れた手つきでドアにカードキーを突っ込みながら彼は言う。 「知らねぇ、勝手に買い与えられた」 「京ちゃんの家ってそんな金持ちだったっけ!?」 「いいや、そもそも親じゃねぇから」 「え、じゃあ誰が?」 「金持ちのお偉いさんの愛人やってんだ。…引いたか?」 「引くかよ。お邪魔しまーす」 少し狼狽えたが、それは引いたからじゃない。愛人ってことは、京ちゃんと性的な関係を持っているってことだろ。それが嫌だったからだ。だから表に出さないようにわざと明るい口調で、何てことない言い方でそう返した。 部屋の中は物が少なく質素で、生活感がほとんど見えない。だからこそ床から天井まである巨大な窓から見下ろす(まばゆ)いほどの夜景が際立っていた。ライトアップされて赤く輝く東京タワーにばかり目を奪われるけれど、もっと遠くの方にはスカイツリーも見える。夏は花火も見えるのだろう。 「すっご……。これ毎晩見てるわけ?」 「まぁ、そうだな。電気つけていいか?」 「やだ、もうちょっと堪能する!」 「はいはい」 あまりにも窓の外を熱心に眺めていたせいで、背後の気配に気づかなかった。 肩にずしりと体重がかかり、耳を撫でられる。振り返りもできず、身体が硬直する。 「すげーピアス穴。もうしてねぇの」 「してる、けど…今日は仕事の後そのまま飲みに来て」 両耳合わせて十数箇所にものぼるピアスの穴。全部高校の時に開けたやつだ。不良だったわけではないし、当然自傷の代わりにしていたわけでもない。 単なる好奇心で、初っ端に何故か耳たぶではなく軟骨に穴を開けた。その時に出会ったピアススタジオのピアスバチバチのスタッフのおじさんが格好良くて、順調にピアスを増やしていったのだった。 親は自由放任という感じだし、学校の校則も緩かったから困ったことにはならなかった。 ひんやりした指が離れてから突如耳に触れた、温かく柔らかい感触が京ちゃんの唇だとは、直後の遠慮がちなリップ音がなければ分からなかっただろう。 「けいちゃ」 振り向き際に唇が重ねられ、俺の言葉は遮られる。 そのまま数度にわたる軽いキスの後、下唇を軽く噛まれ、それから舌を絡めてくる。 昔からだけど、京ちゃんはキスがめちゃくちゃに上手いのだ。気づけば夢中で京ちゃんの首に腕を回して、貪るように応えていた。腰の辺りを撫でられ、それだけで力が抜けてしまいそうになる。 「…な、するだろ?他の男の後は嫌か?」 「…別に。そもそも語らうために来たのにさぁ」 恨みがましく睨むと、京ちゃんは飄々と笑った。 「お互いセックス大好きなんだから仕方ねぇだろ」 「…だね」 京ちゃんの瞳の奥があからさまなほど情欲にギラついていて、死ぬほど興奮を煽られる。 それにしたってあの可愛かった京ちゃんに、こうして見下ろされる日が来るだなんて。
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