2

1/3
前へ
/13ページ
次へ

2

高校の入学式の日。 新しい教室に着いた途端、ちょっとした人だかりが目に入った。そこで囲まれていたのがお察しの通り、(けい)ちゃんだ。 色めき立つ女子を前に迷惑そうな表情を隠そうともせず、終始顔を顰めていた京ちゃん。俺は二つ隣の席で、不機嫌な京ちゃんの横顔をこっそり盗み見た。 眉間にしわなんか寄せちゃって、その憮然とした表情でさえも様になっていた。女子が騒ぐのも納得だ。 体つきは華奢で顔立ちも少し幼く、イケメンというよりは美少年という言葉がしっくりきた。 式の後は、教室で一人一人が自己紹介をしていく時間が設けられた。 名前、好きなもの、みんなに一言。特に内容を指定されたわけではないけれど、何となくその三つを前の席から順番に言う流れだった。 「柏崎(かしわざき)(けい)です。嫌いなことは、馴れ馴れしく話しかけられること。どうぞよろしく」 京ちゃんのその自己紹介を、一生忘れることはないと思う。それほど強烈な印象を残したし、元々静かだった教室が一層静まり返った気がした。というか、空気が凍った。 俺はそりゃもう感心しちゃって、確か「嫌いなことは〜」なんて真似して言ったっけ。 歯に衣着せぬ物言いをする、白黒ハッキリとした性格の持ち主。かっこいい、って素直に思った。 京ちゃんはその日以降もずっとガードが堅くて、『鑑賞用美少年』なんてあだ名がつけられた。 いつまで経っても刺々した態度を高飛車だと陰で言う人はちらほらいたけれど、ほとんどのクラスメイトは傾倒して京ちゃんを遠巻きに鑑賞し崇め奉るようになった。 他の学年やクラスから噂を頼りに覗きにくる輩を追い払う役目を買って出る者もいた程、京ちゃんを守るという団結が知らず知らずのうちに生まれた。本人は絶対気づいていないと思うけどね。 俺はどんなに睨まれても邪険にされても根気よく絡みに行って話しかけて、いつしか京ちゃんの親友のうちの一人というポジションを得ることに成功した。ちなみに自称だし、結局最後までうざがられていた自覚はある。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加