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3
「別に普段の家族仲は悪かねぇよ。気ぃ遣わせて悪かったな」
風呂上がり、俺のベッドの上にあぐらをかいた京ちゃんは、濡れた髪をわしゃわしゃ拭きながらぶっきらぼうに言った。
お世辞にも綺麗に保っているとは言えないごちゃごちゃとした部屋にいる京ちゃんは、まさに“掃き溜めに鶴”を体現していた。
「今日、喧嘩中の姉貴が実家に帰ってきてて気まずいだけだ」
「へー!京ちゃん、お姉さんいたんだ。写真ないの?絶対美人でしょ」
「……」
京ちゃんはジト目で俺を凝視する。
あー…これは地雷、だったかもな。
「…ごめん」
「いーや。あんたの言うことも、他の人と同じだなって。見る?美人だと思うけど」
長く息を吐いて、スマホをいじり出すその細い手首を思わず掴んだ。他の人と同じ、なんてわざと少し棘を含ませた言葉に、まんまと傷ついている自分に気づく。
「なんだよ」
「いい。別に興味ない」
「…そう、なのか」
そのホッとしたような、同時に少し戸惑うような表情に俺はごくりと唾を飲んだ。
すり、と掴んだ手首を親指でさすると、京ちゃんは驚いたようにスマホを取り落とす。とてもセフレ持ちだった奴の反応には見えない。
「何だよ離せ。キモい触り方すんな」
挑発するような、しかし若干焦っているのを隠せていない笑いかたをする京ちゃんに、俺はいとも容易く劣情を煽られた。
もう片方の手首も掴んで、そのまま布団の上に押し倒す。
「京ちゃん…俺、京ちゃんなら抱けるわ」
「余計なお世話だ」
可愛くないことを言う京ちゃんの両手をシーツに縫い留めて、俺は唇の上にキスを落とした。さすが慣れているだけあって、京ちゃんはほとんど動じる様子がない。なんなら余裕が生まれたのか、少し呆れた表情を見せた。
「マジで言ってんのか?中村」
「マジ。京ちゃんだって今日、譲と未遂だろ?ヤりたくない?」
「ふーん。…あんたがいいならいいけど」
すんなり受け入れた京ちゃんは妖艶な笑みを浮かべ、キスを催促するように俺の首の方に腕を回した。
可愛い。何だこれ。京ちゃん、すげー可愛い。
唇を重ね、京ちゃんの口の中に舌を割り込ませる。京ちゃんの唾液は甘く感じた。そういえば京ちゃんはファミレスで、最後にちゃっかりデザートも食べてたんだっけ。
その時、身体がぐるんと半回転した。
唇が離れ、何故か俺が組み敷かれていることに気づく。
見惚れるほど綺麗な笑顔の京ちゃんは、照明の逆光で影になっているのにやたらキラキラして見えた。
「えっと…けーちゃん?」
「あんた相手だったら、俺が抱きたい」
「え、うそ待って」
慌てふためいて押しのけようとするも、儚げな美少女然としたこいつだってれっきとした男だ。びくともしなかった。
代わりに「だめ?」と聞きながら顔や首筋に請うようなキスを浴びせるのはずるいと思う。
今の今まで京ちゃんを抱きたいと思っていたはずなのに、俺は易々と根負けして「いいよ」なんて言ったから処女を捧げる羽目に陥った。
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