恋になる5分前

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 忘れ物を取りに教室に入ろうとした時、中の話し声が聞こえてきた。 「マジでないよな。あの大女。」  入るのを躊躇ったのは、私の話だって気がついたから。  たぶん今日の掃除の時、ふざけていた男子の誰かだろう。 「あのデカさで小菅茉莉(こすげまり)ってないよな。おおすげだよ。」  私は、教室の後ろの引き戸に背中を預けて、言いたい放題な男子の会話を聞く羽目になった。  忘れ物は宿題のプリントだから、出来れば取りに戻りたいけど、中にズケズケと入れる程、私の心は強くない。  クラスの男子とほぼ同じくらいの身長、173センチはバスケ部では抵抗がないが、教室ではいささか目立つ。  自然と女子の中で頼りにされ、男子に注意する役目を押し付けられることが多々あるのだ。  本当は、かわいいものが大好きな普通の女の子なのに…  開き直って入ろうかと思ったその時、さっきまで黙っていた別の声が聞こえて来た。 「小菅は、結構かわいいとこあるし、そこまででかくないよ。」  その一言にドキッとした。 「そりゃ新見は自分が185あるから、気にならないだろうけど、女ってちっちゃくてかわいい方がいいと思うぞ。」  さらに言う男子に新見君は言った。 「お前たちには、小菅の良さがわからないんだな。まぁ、それならそれでいいけどね。」 「なんだよ。」 「ライバルは、いない方がいいからね。」  いま新見君、なんて言った⁈  私はびっくりして、ズルズルとその場に座り込んだ。 「それじゃ俺、帰るわ。」  新見君は、そのまま後ろの扉から出て来て、座り込んだ私と目が合った。 「と言うわけだから、小菅、俺と付き合って。」  私がここにいたことに気づいていたの?  新見君に引っ張ってもらって、立ち上がった私は、さらに大きな新見君の腕の中に真っ赤になって、すっぽり収まっていた。 「やっぱ、小菅ってかわいいよな。」  私の中でキュンキュンが止まりません。  これって恋ですか?
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加