いつか誰かが

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「ははは…… いや~参った参った、とりあえず命だけは助かったよ」 『沢から滑落して重体』と聞いて名古屋から苫小牧までスッ飛んで来た私に、祐也は頭を掻きながら照れ笑いをしてみせた。 「悪かったな、こんな所まで見舞いに来させちゃてさ」 まるでミイラみたいに全身包帯グルグル巻きの姿で謝る彼の、両膝から下は無くなっていた。滑落した時に岩山に衝突し、原型を失ったそうだ。医者曰く「死ななかっただけでも奇跡」だとか。 「何やってんのよ、まったく……谷底から山岳救助隊のヘリで吊り上げてもらったって? 口がきけるようで、ひとまず安心したけど」 どうしよう。『足』の事に言及していいものだろうか。それとも知らん顔をするべきなのか。 「いやぁ、悪りい、悪りい。お前に心配掛けちまって。ま、足は半分になっちまったけど、地獄に落ちるにはまだ早かったみたいでさ」 こっちの気も知らず、祐也が『足』を指差して見せる。 ……はぁ、どう返していいか分かんない。 こういう場合、何と言えば正解なの? 『気を落とさずに』とか言うわけ? スゲー白々しい感じになりそうで言いにくいけど。一応それでも赤の他人じゃなくて『彼女』とかいう立場なんだし。 「何よ、そのテンション高いの。そんな大怪我をして……平気な顔してるけど、今でも全身の傷が痛むんじゃないの?」 もしかして『頭を強く打ち過ぎた』とかじゃないよね? 「ん? ああ、まぁ、今は痛み止めが効いてるからね。これで腫れや痺れが退いてきたら逆に痛みがでるかもって、言われてるよ。ま、『そん時はそん時』さ」 尚も、祐也はアッサリとしている。 「……立ち話も何だから、座れよ。」 祐也に勧められるまま、ベッド脇にある丸椅子に腰かける。そう言えば、あまりに急いできたから何の見舞いも持ってこなかったな。……後でテレビカードでも差し入ればいいか。 「『足』は確かに残念だけどさ」 私から視線を逸らし、祐也が半開きになっている窓の外を見つめる。 「無くしちまったモンはしゃーねーしよ。苦労はするだろうけど、俺は前を向いて生きるつもりだよ。何しろ『化石ハンター』ってのは楽天家でねーと、やってらんない仕事だからさ」 そう、彼は大学の助教として恐竜の化石発見に日々奔走している。 それも祐也が探しているのは『骨格や歯』などではなく、『足跡の化石』なのだそうだ。随分変わったシュミだと思うが、世の中には『恐竜の卵専門』という研究者もいるらしいから特段『変人』というわけでもないらしい。 そして、その発掘作業中に十勝の沢から滑落して救急搬送されたのだ。
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