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声を返したら、亜貴の手が、垂れ下がったままの私の指先に触れて、つなぎ合わせてくる。恋人みたいな距離で、亜貴の瞳が揺れるのを見た。
「甘えたいときとか、たぶん、出てると思う」
「……から、言いたくなかっただけ」
さっくりと心臓のど真ん中に刺さって、息が止まりかけた。
まるで、まるで私が好きみたいな言い方をする。
瞬きして、亜貴が「あんま見ないで」と囁くのを聞いた。この世で一番好きな人が、私に甘えているのかと思うとたまらなく愛おしくて、みじめになった。
こんなに可愛らしく側にいてくれても、亜貴は私を好きには、なってくれないのか。
「ごめん、総司の前だと、俺の気持ちバレそうだから、言いたくなかった」
私の瞳を見て、亜貴が呟いた。その声の調子が胸元を抉っている。
別に甘ったるい言葉を期待したわけじゃない。好きになってくれることを期待したわけじゃない。
亜貴が好きな人のこともよくわかっている。総司にばれないように必死になっているくらい知っている。だからこれくらいで傷ついてはいけない。
震える息を殺して、小さく言葉を打つ練習をしている。大丈夫、大丈夫。呪文のように壊れかけの心臓で唱えて、唇を動かした。
「そっか。えらいね」
「うん?」
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