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散々笑って、あの日の私たちは、一つのベタな遊びを思いついた。
「今日、泊っていく?」
物思いに耽っている思考が散らばってしまう。亜貴のほうを見て、既に部屋着に着替えたらしい姿が見えた。
まるで彼氏みたいだ。
笑ってしまいそうになる。事実、彼は、小森亜貴は、私の彼氏だ。
「ん~」
「あれ、悩むの」
「ええ? そんなに厚かましく見える?」
「あはは。そうじゃないけど。一緒にいてくれないのかなって思っただけです」
「亜貴はいちいちあざといよね」
「褒めてる?」
「うーん?」
亜貴と二人だけの時間は、まるで醒めない眩暈だ。
いつまでも眩しいまま、私の体には順応しない。眩暈のようなきらめきが視界いっぱいに浮かんでは、どうにか必死でやり過ごしている。
側にいる数だけ、罪の質量は重くなる。
「朝まで飲もうか」
「え~、亜貴つよいからいやだなあ」
「梢もお酒好きでしょ」
「亜貴の誘い、断れたことがない」
「それはよかった」
「よくないよ」
「梢に置いて行かれないように必死だから、許して」
茶化す調子で呟かれる。どうあってもあり得ない言葉に泣きたくなって、ただ「置いて行くわけないよ」と囁いていた。私は汚い。
亜貴は何でもこなしてしまいそうな見た目とは反対に、炊事がからきしだめだ。気づいたのは、付き合いはじめてすぐにこの部屋に来たときだった。
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