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どちらかというと兄のように振る舞うことが多い亜貴の数少ない苦手要素に、笑ってしまったことを覚えている。
横で何かを手伝おうと右往左往している亜貴を思い返しては笑っていた。
ここに来た日と同じく、今日もやはり私が夜ご飯を作って、二人で映画を観ながら食べた。亜貴はどんなに簡単な料理にも感動して、世界で一番の魔法みたいに取り扱ってくれる。それが私が故に起きることじゃないことを必死に言い聞かせている。
私はどこまでも滑稽で、無様だ。
何の苦労もなく時間が過ぎていく。針の上の平穏を歩いて、予感に怯えながら生きていた。
代わるがわるにお風呂に入って、タオルに水分を押し付けながらリビングに出る。当然のように亜貴の部屋に置かれた自分のパジャマを着ている自分がおかしい。笑いながら移動したその先で、ベランダへと続くグレーのカーテンがはためいているのが見えた。
「亜貴?」
「ん、こっち」
少し遠く先から声が聞こえている。その声に従ってベランダへ近づけば、はためくカーテンの中に、亜貴が隠れていた。
首を傾げれば、指先が私を呼んだ。
「うん?」
「花火大会、しよっか」
亜貴の手には、プラスティックの袋に入った線香花火とライターが握られていた。笑ってしまう。さっきの話は本気だったのか。
いつの間に、雨がやんでいる。
断る理由もないまま、亜貴の隣に腰を下ろした。
ついさっき部屋から亜貴が出してくれただろう乾いた男物のサンダルに足をつっかけて、亜貴と同じようにベランダに出る。
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