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それは、随分と侘しく、物悲しい花火大会だっただろう。総司も、朋美も、ここにはいない。恒例行事のようにしていたのに、全てが変わってしまった。
私の嘘のせいで。
「はい、どうぞ」
「うん、ありがと」
亜貴に握らされた線香花火をしっかりと掴んで、差し出されたライターの上で揺らめく赤に先端を触れさせる。
しっかりと火がついて、零れ落ちないようにと風向きに対抗して掌を添えた。
同じように真剣に自分の線香花火を見つめる横顔を盗み見て、あの日の亜貴の表情がよみがえってくる。
いつも私は、遠くを見据える亜貴の横顔ばかりを見つめている。
亜貴は、あの日、どれだけ苦しんだのだろう。
「あ、」
ぽたりと落ちてしまった。
私の声に反応した亜貴も同じように火種をこぼして、私と同じように声を漏らしていた。小さく笑い合った。その幸福の奇跡に泣き出したい。
亜貴の苦しみを、取り除くことができれば良かった。今もずっと、何度だって、切に願っている。
「はい、もう一回」
「今度こそ、負けないからね?」
「はは、たのもしい。俺も本気出すからね」
軽く触れる指先にすら心が壊れそうになることも、全部全部、私の勝手だ。
指先に集中しながら、ためらったまま、どうしても消えてくれない言葉が出た。何度聞いても傷つけて、ひどく傷つくことを知っているくせに、私はその問いを立てて亜貴の目を見た。
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