さびしさの輪郭たち

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さびしさの輪郭たち

「帰りたくねえ~」 盛大なため息を打った総司に、朋美が深く頷いている。 あんなにも飲み続けていたのに、総司も朋美も亜貴も、すでに平常運転で笑っている。亜貴が運転する車は、当然大学方面へと近づいて行く。 知った地名になればなるほど、総司の嘆きは大きくなって、そのたびに朋美はけらけら笑いながら同意して「本当に無理」と声を返していた。 夏のきらめきを確認するようにミラー越しに二人の姿を見ている。 眠りから覚めたら、亜貴はとっくに部屋を出ていた。一人のベッドから起き上がって、すでに一階の掃除を終えたらしい三人と目が合う。 寝過ごしてしまったらしい。 車に荷物を詰めて、コテージを出たのは15時くらいだった。 結局かなり残ると思っていたお酒はほとんど空いていて、引き上げてきたものは総司の鞄の中に入ってしまうほど少なかった。 「帰りたくない、マジで! あっくん、このまま地元帰ろ~?」 「総司、明日シフト入ってるでしょ」 「ん~、誰かに代わってもらう」 かなり無理のある声に、どっと笑いが漏れた。たしかにこの道からは、すぐに地元に行ける。 亜貴も苦笑して「時間があれば、朋美ちゃんにも見せてあげたいけどね」とミラーを見つめていた。ミラー越しに、亜貴と朋美の視線が混じる。 私はただ、その事実を確認して、目の前の車道を眺めている。
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