さびしさの輪郭たち

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朋美の声に振り返って、総司と二人で画面を覗き込んでいる二人の姿が見えた。陽気な音楽とともに総司が鼻歌を歌って、「懐かしい」と笑っている。 どんな写真が握られているのか恐ろしくなった。 「亜貴、何の写真……?」 「この彼女アングルがたまらん」 「ええ、何の写真? 怖い」 自分以外がにっこりと笑っている。責めるように亜貴を見つめたら、観念したように口を開いた。 「ん~、高2の時、アイス買って帰ったことあったでしょ。総司に送ってあげた写真」 「ええ? そんなことあったかなあ……」 思い浮かべている間に、目の前に画面が迫ってくる。 確かに高校生のころの自分が、アイス片手に笑っている。亜貴のスマホの中に残されている必要のある画像とは思えなくて、茫然としてしまった。 「え、亜貴、この写真、何でまだ持ってるの?」 たいしたことのない一枚だった。 亜貴はそんなに携帯に触れないほうだし、写真なんて撮らない人だ。よくよく考えたら、亜貴に写真を撮ってもらったのはこの時が初めてで、それ以降にもなかったのかもしれない。 亜貴はいつも、私の目を見て、笑ってくれる人だった。だから、私と亜貴の間に、連絡手段なんて必要がなかった。それこそ、総司に送りつけるくらいだ。
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