束の間の箱庭

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「まだ、朋ちゃんのこと、忘れられなさそう?」 亜貴は、大橋(おおはし)朋美(ともみ)という生き物を心底愛している。 「まだ、好き?」 痛む傷口に、ペン先を突き刺してぐるりと抉っている。自傷行為のような問いかけだった。 なるべく聞かないようにと思っていたくせに、どうしようにもあの日の亜貴の瞳が記憶の裏側で繰り返されて、あっけなく、言葉が漏れた。 亜貴はまだ、朋美が好きなのかなんて、聞かなくても知っているくせに。 私の声に、亜貴が自嘲するような笑みを浮かべた。その頬の仕組みを見つめているだけで、苦しみが背中からしみ込んでくる。じわじわと侵食して、息が続かなくなってしまいそうだ。 亜貴は、私の瞳をじっと見つめていた。いつもそうだ。いつも錯覚する。 ひどく自分本位な、最低な勘違いをして、泣きたくなる。 「……好きだ、好きだよ。好きだけじゃ、だめなのかな」 だめじゃないよと言って、震えて仕方がない亜貴の背中を押してあげられるような幼馴染なら、亜貴は心底信頼して、永遠に側に置いてくれるようになるのだろうか。 私には、できない。 いつだってその言葉を勘違いしたくて、自分の宝物にしたくて、ばかみたいな自傷を繰り返してしまう。一匙でも、私のものになってくれたら良かった。 きっと、そんなことが起こるなら、真面目で誠実な亜貴は、罪悪感で私を突き放してしまうのだろうけれど。 好きになってくれないから、そばにいられる。地獄のような醒めない現実に溺れた。 亜貴は私を、愛さない。
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