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あっという間だったと言ったら、何とも味気ない。
車に乗っていただけなのに疲労感があって、目が回りそうだった。総司と朋美を下ろして、二人で車を返しに行く。
あの二人がいなくなった瞬間に音がなくなった車内で、さびしさが鳴りそうだと思った。
とうに夕方が、世界を支配している。
事務的なアナウンスに従って二人で車から降りる。たった二人分の荷物を持って地面に降り立ったら、すべての夢から醒めてしまったような心地がした。
「亜貴、運転お疲れ様」
「ありがとう。梢、持つよ」
「大丈夫だよ」
大丈夫だと言ったのに、亜貴は私の荷物を簡単に引き受けてしまった。今日一日で一番疲れているだろうに、疲れなんて見せないように笑っている。
何度目かの苦しみが襲い掛かった。どうして亜貴は、やさしいんだろう。
「今日は疲れちゃったでしょ。私は全然元気だから」
亜貴と私の家の間くらいにある店だから、すぐに分岐点についてしまう。立ち止まって荷物を受け取ろうと手を差し出したら、亜貴が眉を下げたのが見えた。
「亜貴?」
「うち、くる?」
誘っておきながら、すでに私の手を掴んでいた。冷えた指先から、亜貴のかなしみが伝わってきてしまいそうだと思った。
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