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荷物を置いて、台所に立った。
亜貴はほとんどここを使わないから、自然と私が揃えたものばかりになっている。すべて打ち明けたら、この場に立つのは私じゃない誰かになる。当たり前の事実の前で何度でも蹲ってしまいたくなるから、おかしい。
何もなかったら、買い物にでも行こうか。一人思い浮かべて、体が動かなくなった。
「あき?」
小鍋に水を入れたところだった。何かの重みがかかって、よく知った匂いに、手が止まってしまう。肩に巻き付いた腕は、いつもたくましいと思う。
「こずえ」
丁寧に呼ばれて、背筋が震えそうになった。
後ろから縋るように抱きしめられている。眩暈がぐらぐらと揺れて、立っていられなくなりそうな気がした。
大切なものみたいに囁かれると、勘違いしてしまう。ぎゅうっと足の爪に力を入れて、震えそうな唇を叱咤している。
「どうしたの」
「泣いてない?」
不安げな声に、こころがばらばらになりそうだった。亜貴は、あれだけ傷ついて、それでもまだ、私に問うのか。
「しんどくなかった?」
誰よりもくるしんだ人が言った。まるで私のこころのほうが大事みたいに囁かれて、猛烈に肺が痛んでしまう。
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