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亜貴の前では、ずっとそうだ。醒めない眩暈が続いている。
言えない声を胸のうちで呟いた。亜貴が好き。亜貴が好き。亜貴だけだ。こんなに苦しいなら、全部言ってしまえたらいいのに。
「俺のものにはなってくれない苦しさで、めちゃくちゃにしそうになる時がある」
「それは……、だめだよ」
私は汚い。
めちゃくちゃにするなら、私にすればいい。
とっくにめちゃくちゃだ。亜貴のくるしみを引き受ける何かになりたい。もう、亜貴の何かなら、それでいいのかもしれない。
私だけに見える亜貴の一面なら、きっといつまでも大事に抱えて宝物にするのだろう。たとえそれが、他の誰かへのくるしい気持ちの欠片だったとしても。
亜貴になら、何でも捧げよう。
重たい恋心が見つかってしまいませんように。祈るような気持ちで、声をあげた。私は汚い。汚いから、酷いことを言う。
「亜貴、」
呼んだら、亜貴の拘束が緩んだ。振り返って、絶望の瞳の中に、私が映りこんでいるのを見つめている。
「亜貴が嫌じゃないなら、私にぶつけていいよ」
「こず……」
「亜貴になら、めちゃくちゃにされても、いい」
最低の囁きで、亜貴が声を失った。
意図なら、はっきりと伝わったのだろう。亜貴の頬に指先で優しく触れる。卑怯なやり方だ。私を見てほしくて必死だったのかもしれない。
亜貴を助けたいのか、苦しめたいのか、わからない。きっとここで亜貴が私に触れたら、真実を知った時、どこまでも苦しめることを知っていた。
「亜貴」
囁いたら、亜貴の熱い指先に絡まる。淀んだ瞳に、熱が揺れている気がした。
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