消えてよ、かなしい愛の匂い

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消えてよ、かなしい愛の匂い

朝起きてすぐにお風呂に入ってよかったなんてことを漠然と考えていた。 亜貴に引っ張られるままに、ベッドに縺れて、まっすぐな瞳にぶつかってしまう。何か言わなければならない気がして口を開いたら、声帯が震える前に亜貴の唇が触れた。 二度目のキスは、触れあった先から痺れて、夢中でかき抱かれて、離れることなく続けられた。 くらくらする。視界が酷く曖昧で、亜貴が一言も喋らないから、どこか夢を見ているようだった。 切羽詰まった眉の苦しさを見て、感情がなだれ込んでくる気がする。こんなにも熱いのか。亜貴は、こんなにも情熱的に人を愛するのかと思った。 背筋が震えて、シーツの間に指先を差し込まれたら、眩暈が散らかる。 「あき、」 無意識に呼んだら、亜貴がはっとしたように手を止めた。かすかに熱が灯ったままの瞳で、亜貴が私を射抜いている。 「こず、ごめ……」 まるで、私にするつもりじゃなかったみたいな音だった。 最後まで聞く気にもなれずに、ただ亜貴の頭の裏に手を添えて、勝手に引き寄せる。 今だけでも良いと思ったのか、ここで、もしかしたら私を見てくれると思ったのか、もう、どっちでもいい。
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