消えてよ、かなしい愛の匂い

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私の声が不要だと言うのなら、一音も声を上げない。静かに誓って、口づけた。 亜貴の都合の悪い言葉をこの世から消してしまいたくて、必死になっている。 不自由な鼓動だけが聞こえる。それ以外は全部亜貴だ。 亜貴の息遣いに触れて、真正面から見つめている。昨日のキスの意味なんて忘れてくれてもいい。今日の触れ合いが、私への思いじゃなくても良い。 好きになってくれないことなんて、もう知っている。 触れられたら、この重い初恋も、消え去ってくれるのだろうか。 「朋ちゃんだと思って良いから」 囁きながら、なんてむごいことを言っているのだろうと思った。少しもそんなことは思っていないのに、まるで気にしていないように囁いた。 亜貴は、私が耳元に囁いた声を聞いて、体を震わせていた気がする。どうしようもなく、優しい人だと思う。罪悪感なんてなくなってしまえばいいのに。 祈るようにもう一度口づけた。 「朋ちゃんって、呼んで、良いよ」 「こず、それは」 「もう、喋らないから。だから」 「わかった」 私の声なんて聴きたくないみたいに遮られた。ただそれだけのことに傷つこうとする心臓に、飽き飽きしている。 「梢も、俺を総司だと思えばいいよ」
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