消えてよ、かなしい愛の匂い

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耳元に乗った残酷に、私は笑っていられただろうか。 ただしがみ付いて、頷いて見せた。私は、総司じゃなくて、亜貴を思っている。今私に触れる熱のやさしさだけを覚えていたい。 どんなに残酷でも、どんなに最低でも構わない。 この思い出一つ抱えて死んで行けるなら、亜貴への汚らしい愛も、ようやく捨てられるのかもしれない。 でも、亜貴の腕に抱かれたら、もっと好きになるのかな。 おそろしくて、ずっと触れないままでいた。そのくせに、亜貴の瞳にとらわれたら、もう戻りたくなかった。 見つめ合って、亜貴が眉を顰めているのが分った。くるしそうだ。かなしいし、傷ついているのかもしれない。 私と亜貴の関係は、もうぼろぼろだ。 こんなことをしたら、真面目な亜貴はきっと後悔する。もう、4人で一緒なんて無理なのかもしれない。 「朋美ちゃん」 散々ためらった亜貴が、耳元に突き落としてくる。 地獄の底は終わりがない。 果てなきくるしみの最中で、亜貴の唇が、額に触れた。労うような、心底愛おしいものを愛するような優しさだった。 それが、朋美に向けられる、亜貴の愛なのだと知った。 「朋美ちゃん」 呼ばれるたびに何かがすり減っている気がする。丁寧な指先が、優しく触れてくれる。体と心がばらばらになってしまうような気がした。
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