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気づいてほしくないと思っているくせに、どこかで気付いてほしいと思ったりして、私は狂っている。
名前を呼ぶだけで好きが伝染して、亜貴が私に恋をしたらいい。でも、してくれないから、亜貴なのだとも思ってしまう。
少しだけ離された距離の先で、亜貴が真剣な瞳をぶつけてくる。瞬きすら止まったまま、亜貴の苦しげな表情を見つめて黙り込んでいた。
「嫌がられたって離れないからね。一人になんて、絶対させない」
亜貴は優しい。いつも優しい。どうしてこんなにも、相手を大切にできるのだろう。亜貴だって苦しんでいるくせに。
決意のような言葉を聞くのは何度目だろうか。その言葉を耳にするたびに心底絶望して、小さく安堵を感じてしまう。
苦しいままの息を無理やりに吐きだして、呼吸を整えるように息を吸い込んでいる。
亜貴の目に、笑って見せた。
亜貴は朋美が好き。朋美と総司は両想い、私は、総司じゃなくて、亜貴が好き。
単純に、花火みたいに、ぱっと消える恋心ならば、私たちは、誰一人傷つけずにいられるのに。
苦しいままの喉元を動かして、ようやく声をあげた。
できるだけ、この苦しみから遠ざかりたくて仕方がなかった。
「あはは、亜貴は本当に、かっこいいんだから」
亜貴は、私の声に静かに笑みを浮かべていた。優しく髪を撫でて、同じく茶化すように、言葉を繰り出していた。
「うん、すきになってもいいよ」
酷い人だなあ。
まるで、私の気持ちなんて全く知らないまま、ふざけたような口調で笑ってくれる。残酷な現実に目が回ってしまいそうだ。
なんてむごいことを言うのだろうか。
同じように言ってしまえたらいいのに。ねえ、本当に、好きになっても良いのだろうか。
亜貴は私を、好きになってはくれないのに?
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