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崩壊カウントダウン
「好きな人に、告白しようと思っているの」
簡潔につぶやいたら、目の前のその人は、グラスを拭いていた指先を止めた。
私のほうを見て、しばらく考え込むように唇を震わせている。見つめる瞳から、熱が気付かれてしまいそうだ。気づかれてしまいたいのかは、よくわからない。
「そう、なんだ」
今から一年前の、この日の亜貴は、告げる私に笑って見せていた気がする。
グラスをシルバーの台の上に置いて、小さく息を吐いている。もう一度目が合ったら、頬をゆるく笑わせている亜貴が静かに唇を開いた。
「いつ?」
「うん、花火大会の日に」
「そっか」
亜貴には、好きな人がいるとだけ伝えていた。
恋の駆け引きなんてできもしないくせに、酔った勢いで亜貴の前で泣いてしまったことがきっかけだ。泣いた私を慰めながら「何かあったの」と聞いてくれる亜貴に、とうとう吐き出したくてたまらなくなった。
『好きな人が、いる』
『……すきな、ひと?』
『うん、全然、振り向いてくれないの』
ねえ、あなたのことだよ。
そう言えないままの私を見て、亜貴は苦しそうに眉を顰めていた。本当に優しい。優しい人だ。
『上手く行ったらいいね』
丁寧に囁かれた言葉は、私の左胸に消えない傷跡を残している。
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