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『亜貴』
『うん?』
『どうして好きになったのかなんて、聞かないでね』
いつから好きだったのかとか、どこが好きなのかなんて、聞かないでほしい。
ずっと前から、全部がすきでたまらないの。しかたがないじゃないか。説明なんて、もうできるはずもない。
泣きたい目で囁いたら、亜貴はどうしようもなく苦しい表情のまま、私のことを慰めた。
望みがなさそうなことは、もうずっと前から知っていた。そのくせにいつまで経っても好きなままで生きている。
いい加減、終わってしまいたかった。
かなしい心だけ抱えて生きていくことに疲れ切って、でもやっぱり期待もしていた。
どこかで、亜貴が呆れながらも私を好きになってくれる奇跡の世界を夢見ている。だから、こんな試すようなことをして、ばらばらにちぎれてしまいそうになるのだ。
「じゃあ、今年の花火大会は、一緒にいられない?」
「ううん。亜貴と皆と一緒に行くよ」
「そっか……」
だって、私が好きでたまらない人は、亜貴ひとりだ。言えない愛が胸元に滞る。
「亜貴は、」
「うん?」
「亜貴は、好きな人、つくらないの?」
残酷な言葉を自分で打った。
泣きそうになって、仕事をしているふりをしながら俯いている。
亜貴から、好きな人の話を聞いたことがなかった。大学生になってもずっと亜貴と総司と一緒のままなのに、私たちはそういう話を一切しない。
二人から、彼女という言葉を聞いたことがなかった。だから、安心していられたのかもしれない。
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