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「俺は……」
「梢ちゃん」
後ろから響いてくる声に、亜貴は言葉を途切れさせてしまった。苦しげな瞳を見送って、止まりかけていた呼吸を継ぎ直している。
亜貴の言葉を聞いていたら、私はどうなってしまっていたのだろうか。わからないまま、無理やりに思考を切り替える。
「朋ちゃん、おはよう」
「おはよ~。今日シフト一緒で嬉しい」
「うん、私もだよ」
三人だけの世界に、突然一人の女の子が舞い込んできた。
大橋朋美とは大学で出会った。そのあと面接を受けたアルバイト先でも偶然出会って、それ以来親友のように仲が良くなった。
このカフェのスタッフが足りなくなって、亜貴と総司を呼んだのも、私だ。特に何の違和感もなく当たり前のように朋美は私たちの中に入ってきた。
「あ、亜貴くんもおはよ~」
「うん朋美ちゃんおはよう。今日は深夜まで?」
「そそ。ロングシフトだよ~」
「ええ~、朋ちゃん、また一緒に帰れないんだ。ショック」
「えっ、梢ちゃんがそう言ってくれるなら早く帰ろうかな?」
「相変わらず二人は仲良しだね」
私の隣に、当然のように朋美が立っている。
朋美の髪色はコロコロ変わるから、いつ見ていても眩しい気がする。亜貴も同じことを思っているのだろう。眩しそうに見つめてから「今回は何色っていうの?」と笑って聞いている。
そのやさしさに、胸がざわざわしてしまう私は本当に汚い人間だと思う。
「ふっふっふ、ピンクっぽくしてみたよ~。似合う? 可愛い?」
「うん、朋美ちゃんっぽい」
「梢ちゃんは? どうどう?」
「うん、可愛いよ。朋ちゃんは何でも似合っててうらやましい」
「え~! 私は梢ちゃんのナチュラルな茶髪が好き~」
悪意なんて持てる気もしないくらいに、朋美は優しくて快活な女の子だ。何度でも目を細めたくなる。
小さく笑っていたら、勢いよく朋美に抱きしめられた。
「わっ」
「梢ちゃんラブ~」
「ふふ、朋ちゃんおかしい」
「ほんっと梢ちゃん良い匂いするよね」
「うわ、イチャイチャすんなよ」
「あ、ソージじゃん」
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