4022人が本棚に入れています
本棚に追加
/442ページ
「あっくん、こず、1年おめでと~!」
にへらと笑って、私の前にアイスを差し出してきた。男はなおも嬉しそうに笑って「こずの好きなやつだぞ~」と言った。
平穏を絵に描いたような男は、同い歳とは思えないほどに甘ったるい顔をしている。実際に大学3年には見られないことが多いことを、総司はコンプレックスにしていた。
「ありがとう、そうちゃんもおめでとう」
努めて声のトーンをあげた。総司は気づくはずもなく笑っている。「ありがと~」と頬をいっそう緩めて、私の隣に座っている男の前にも同じパッケージを置いた。
「こっちがあっくんの」
「……あー、ありがとう。照れるなあ」
総司に負けず劣らずの笑みを浮かべた男が、綺麗に一呼吸おいてから、ゆっくりと言葉を擦らせた。酷く丁寧な音だ。
振り返って、男の瞳を見つめてしまう。
「亜貴もこれ好きだったっけ?」
「うん、梢が食べてるの、おいしそうだったから」
自然とぶつかった視線の先で、困ったような表情を作っている。それがどういう意味合いを持っているのか、わかるくらいにはそばにいる。
「はいはい、お邪魔虫が通りますよっと」
「総司、わかってるなら端に座って」
「いーやーだー」
最初のコメントを投稿しよう!