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じっと見つめられて、時が止まりかけた。亜貴の薄い唇がゆるゆると持ち上がっている。そのまま私の顔を見て、吹き出すように笑った。
「はは、お願いしたら、やめてくれるんだ」
「ええ? だって亜貴の中から私、減っちゃったら困るしね」
「うん、どんどん増やすようにするね」
「ふふ、増やすって!」
「こずえ、増殖させる」
「なんか菌みたい」
二人で笑いあって、最後の一枚を拭き終えた。亜貴と二人だけで居られる時間は、あとどれくらい残されているのだろう。わからないまま、亜貴にお礼を告げた。
「お手伝いありがとう」
「いえいえ。じゃあ、俺たちもそろそろホール行こうか」
「うん、そうだね」
布巾をブリーチし終えて、手指に付着した水気を拭きとる。いつもと同じように笑って、のろのろ会話して、ただ、それだけ。
ずっと前からそうやって歩いてきた。
私は、どうにかして亜貴と、総司と一緒に居られる方法を考えてきた。だけれど。
「梢」
「うん?」
「花火大会さ」
「うん」
「浴衣とか、着る?」
亜貴は綺麗な顔立ちなのに、あんまり着飾ることに興味を持っていないと思う。同じように、周りの衣服についてもさほど気にした様子を見せてこなかった。
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