4026人が本棚に入れています
本棚に追加
/442ページ
亜貴はどんな時も、私が髪型を変えたり、新しい服を着たりして、逢いに行けば、必ず何かしらの言葉をかけてくれていた気がする。あれは亜貴のお姉ちゃんの指導のたまものだったのかもしれない。
「着ようかなとは、思ってるけど……」
「そっか」
「どうして?」
「好きな人のために、綺麗にしてくるのかなって思って」
亜貴は頬を笑わせている。幼馴染の恋煩いを応援する優しい男の子のコメントだった。途切れそうになった呼吸で、痺れてしまいそうな指先を懸命に隠している。
「そう、だね」
「じゃあ、俺が迎えに行くよ」
「……ええ、どうして?」
「浴衣で一人歩きは危ないだろうし。俺たちと会った後に会うんでしょ?」
「うーん、そうなる、かなあ」
「梢の好きな相手より先に、俺が梢に会っちゃうのは悪いけど」
苦笑して、私を見つめている。その笑顔で私の心を突き刺せそうだ。
少しも恋愛対象にはなれていなかったと思う。まざまざと見せつけられて、ただ立ち尽くしていた。
「はは、でも亜貴に悪いよ」
「いいよ、どうせ近いし」
「でも」
「俺が一番先に、可愛くしてる梢見れられてラッキーだし」
躊躇いなく言って、私の頭を撫でる。
亜貴は背が高いから、単純に私の頭に手を乗せやすいのかもしれない。もうそれくらいに思っておかないと、何度傷ついたって足りない。
「ね、約束」
過保護なだけ。わかっているから、差し出された節くれ立った小指に、ゆっくりと自分の指を触れさせている。
「よし」
「本当に、お兄ちゃんなんだからなあ」
「はいはい。なんとでもどうぞ」
最初のコメントを投稿しよう!