崩壊カウントダウン

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総司はあれでかなりのさびしがり屋だから、初めの方は頻繁に、酔っ払った総司が部屋になだれ込んできていた。 だいたいはあっくんに秘密にしてほしいと嘔吐しながら言われるので、このことは私と総司の秘密になっている。 総司にも細やかなプライドがあるのだ。 きっと同じように、総司は亜貴にも「こずには言わないでほしい」と言っていることがあるのだと思う。そして、それはまた、さしたる秘密じゃない。 髪を巻いて編み込みながらアップにしていく。 総司は私以上に手先が器用だった。漫画を描いて賞を取ったこともあった。飽き性が祟って、今は書く気もないようだけれど。 小さい頃に何度も髪を結んでもらっていた。懐かしい記憶だ。 総司は花冠も作るのが上手で、反対に亜貴は大の苦手だった。いまだに笑えてしまう。亜貴が初めて私の目の前で泣いたのは、あの日だった。 『一人にしないで』 私の手を掴んで、ぐちゃぐちゃのシロツメクサを片手に握りしめたまま、ぼろぼろと泣いていた。 もう、今では到底考えられないような遠い記憶だ。 置いて行かれるのは、いつだって私の方だと思う。 亜貴は、あの日の亜貴のように幼く泣いたりしない理性的な男性になったと思う。何も変わっていない自分とは、大違いだと思う。 考えを切り上げて、仕上げのスプレーを振りかけた。時刻を見ようと携帯に手を伸ばして、亜貴からメッセージが来ていたことに気付いた。 “10分前くらいに行っていい?” 律儀な亜貴のことだから覚えているとは思ったけれど、まさか本当に連絡が来るとは思いたくなかった。 散々躊躇った指先で、“家わかる? 一人でも行けるから無理しなくていいよ”と送り返すと、すぐに返事が返ってきた。 “多分わかる。近づいたら電話かけるね” 亜貴に会えるのだと思って、もうすでに準備を終えてしまっていた。こないかもと思い込もうとしていたくせに、私はどうかしていると思う。
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