4028人が本棚に入れています
本棚に追加
/442ページ
「どうかした?」
「ううん。亜貴、ここまでよく迷わずに来られたなあって」
「ああ。前に総司と歩いた時、だいたいこの辺だって言ってたの、聞いた記憶があったから」
「そっか」
「うん。浴衣、新しいやつ?」
当たって砕けるために買ったと言ったら、亜貴は同情して私を見つめてくれるのだろうか。そんなわけないか。
白地に大きな赤椿が刻まれた浴衣は、去年の控えめな色とは打って変わって、華やかな装いだ。
「そう。そうちゃんがこっちが良いんじゃないかって言ってくれて」
「そうなんだ?」
総司の服飾のセンスは侮れないから、助言があれば従うようにしている。
亜貴ならきっと、どんな装いでも褒めてくれるのだろうけれど、亜貴の記憶の最後に残る私が一番きれいな私だったら、どれだけつらかろうと、少しはあきらめがつくかもしれないから。
「似合う?」
「うん。すごく」
「ふふ、亜貴は着なかったの?」
「俺は良いよ。梢が転びかけたら、俊敏に動いて助けないと」
「そんなにドジじゃないし」
「昔よく転んで泣いてたの、誰だっけ?」
「あ、出たぁ、亜貴の突然いじわるになるやつ」
静かな笑い声が風に乗る。
目を合わせて笑いあって、どちらともなく歩き出す。今日、最後の花火が上がったら、亜貴に告白することにしていた。
最初のコメントを投稿しよう!