崩壊カウントダウン

16/23

4028人が本棚に入れています
本棚に追加
/442ページ
「どうかした?」 「ううん。亜貴、ここまでよく迷わずに来られたなあって」 「ああ。前に総司と歩いた時、だいたいこの辺だって言ってたの、聞いた記憶があったから」 「そっか」 「うん。浴衣、新しいやつ?」 当たって砕けるために買ったと言ったら、亜貴は同情して私を見つめてくれるのだろうか。そんなわけないか。 白地に大きな赤椿が刻まれた浴衣は、去年の控えめな色とは打って変わって、華やかな装いだ。 「そう。そうちゃんがこっちが良いんじゃないかって言ってくれて」 「そうなんだ?」 総司の服飾のセンスは侮れないから、助言があれば従うようにしている。 亜貴ならきっと、どんな装いでも褒めてくれるのだろうけれど、亜貴の記憶の最後に残る私が一番きれいな私だったら、どれだけつらかろうと、少しはあきらめがつくかもしれないから。 「似合う?」 「うん。すごく」 「ふふ、亜貴は着なかったの?」 「俺は良いよ。梢が転びかけたら、俊敏に動いて助けないと」 「そんなにドジじゃないし」 「昔よく転んで泣いてたの、誰だっけ?」 「あ、出たぁ、亜貴の突然いじわるになるやつ」 静かな笑い声が風に乗る。 目を合わせて笑いあって、どちらともなく歩き出す。今日、最後の花火が上がったら、亜貴に告白することにしていた。
/442ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4028人が本棚に入れています
本棚に追加