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「あき……?」
「こずえ」
「どうしたの?」
前を歩く二人が遠ざかる。
たった二人だけ、神社へと続くうらぶれた夕暮れに、立ち尽くしてしまった。どうしてそんなにも苦しそうなんだろうか。
「言ってなかったことがあるんだ」
ひどく、さみしい告白だった。
私の目を見て、小さく失敗した笑みを作っている。痛みを隠すことをやめてしまった亜貴は、もう一度私を見て、自嘲するように笑った。
「俺も、好きな人がいるんだ」
ゆっくりと呟いた亜貴は、「知らなかったと思うけど」とつけたして、私の前に立っている。
私かもしれないとうぬぼれることはなかった。
だって、もしもそうなら、こんなにも苦しそうな顔をしているわけがない。
そうか、好きな人がいるのか。少しもわからなかった。それじゃあ、私がどんなに頑張ったって、叶うわけもない。
告げる前から、ひび割れた心に大きな杭が打たれた。
そっか。そうだったのか。
「そう……、だったんだ。亜貴、好きな人、いたんだね」
苦しい声になっていないか、気遣う余裕もない。ただ声に出して、息が続くうちに口を動かしている。
去年の夏、私たちは面白い遊びを思いついた。
神社で絵馬を購入して、それぞれが自分の望みを書いて、1年で達成できなければ罰ゲームにしようと言っていた。あの日私が書いた言葉は、今この瞬間に終わってしまった。
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