4029人が本棚に入れています
本棚に追加
/442ページ
亜貴は、何を書いたのだろう。
私と同じように、好きな女の子とのことを書いたのだろうか。亜貴の切なげな眼に射抜かれて、泣きたいまま、声が滞ってしまう。
「うん。でも、その子は俺を好きになってくれたりしない」
「亜貴、」
「総司が好きだから」
穏やかな声のまま、告げられた。何を言って良いのかわからないまま、亜貴の瞳に浮かぶ自分を見つめている。
先へ行った二人の後ろ姿が過って、声が凍り付いてしまう。亜貴は、亜貴は――。
「あき、」
ただ名前を呼んで、亜貴の大きな体に抱きしめられる。
飲んで、酔っ払って、酩酊した頭を言い訳に、距離感が近づいた時にだけ、触れることのできた匂いがいっぱいに広がった。
眩暈がする。
熱い胸に抱かれて、燃えそうなくらいの匂いの中で、亜貴の凍てつく言葉を聞いている。
「総司と朋美ちゃん、ついさっき、付き合うことになったんだって」
「あ、き」
言葉の先なんて、言われなくてもわかってしまった。私の予感は、当たってしまっていた。亜貴は、亜貴の好きな人は。
「朋美ちゃんのこと、好きだったんだ」
こころが、こなごなにくだけて、消えてしまいそうだ。
涙がこぼれた。
頬を伝って、拭えないまま流れていく。何の反応もできないままの私を見つめるために、亜貴がゆっくりと手を放して、触れてしまいそうな距離のまま、私の瞳を見下ろした。
最初のコメントを投稿しよう!