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「こずえ」
頬に、亜貴の指先が触れる。泣かないでと言われているような気がした。
「泣かせてごめん」
「亜貴、私、」
「梢も、総司のこと好きなんだよね?」
「……え?」
労うような、痛みを心底憐れむような瞳だ。頭を鈍器で殴られるような眩暈に襲われて、わずかに思考が止まる。
総司が好き。
胸の奥で繰り返して、反応もできないままに涙がこぼれた。亜貴は、私が、総司を好きでいると思っている。気づいてくれてすら、いなかった。
「私、」
亜貴が好きだ。言おうとした声は、亜貴の言葉にかき消された。
それが、全ての間違いの始まりだったと思う。
「俺たち、付き合おっか」
私の頬に濡れる涙を拭って、苦しい瞳のまま、残酷な提案を打ってくる。
言葉にならないまま、指先が震えだしていた。
何か、恐ろしいことを言われている。去年のこの日、私が願った夢が、悪い夢に乗って目の前にあらわれた。
「亜貴、な、んで」
“亜貴と、両想いになれますように”
「梢は、総司が好きなままで良い」
「俺は梢を好きにならないから、絶対苦しくならないし、梢のこと、泣かせたりしない」
「だから、付き合おう」
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