机下で触れる指先

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左耳に声が聞こえる。インカムから流れてくる亜貴の声に苦笑しつつ、「大丈夫だよ」と呟けば『了解』とすぐに返ってきた。 亜貴と付き合い始めて、もう一年が経過してしまった。緩やかな死だったと思う。 今もまだ、生きていることが信じられないくらいに息苦しい、輝きのある一年だった。 『じゃあ、あじさい』 「うん?」 『次、“い”だよ』 「しりとり? まだ続行?」 2階の小さなキッチンスペースで、一人静かに笑ってしまった。一緒に1階にいられたら、世界一美味しいまかないを作って競ったり、どっちがより綺麗に茶渋を落とせるかで真剣になったりできるのに。 『梢に負けてもらって、はやく安心したいから続ける』 「はは、そんなの、亜貴が勝たなくても一緒に行くのに」 “花火大会で浴衣着られなかった代わりに、地元の夏祭りでも、一緒にどう?” ついさっき聞いた言葉を、頭の奥で反芻して小さく笑っている。 去年、洋服で現れた亜貴に手を引かれて、ずっと隣にいた。 今年は亜貴も浴衣を着ればいいと提案したのは私の方で、亜貴は照れたように頬を掻きながら、『梢が一緒に居てくれるなら』と了承してくれた。 『そう?』 「そう」 『こずえ、浴衣着る?』
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