机下で触れる指先

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「……うん、亜貴が、そうしてほしいなら?」 『去年と同じやつ?』 「うーん」 『違うのにして』 「うん?」 『俺が選んでも良い?』 服の趣味なんて、気にしなさそうな亜貴の言葉に一瞬声が出なくなった。珍しいことが起きるものだ。 「あき……」 「店員さぁん」 「あ、はい」 亜貴がそうしたいなら、と言いかけたところで言葉を止めた。大きな声で呼ばれている。 亜貴に「オーダーあるかも」と言えば、すぐに『了解』と返ってきていた。 背の低い椅子にどかりと座り込んで、すでに周囲にゴミを巻き散らかしている。度数の高いチューハイの缶が置かれているのをみて、げんなりしそうになる顔を引き締めた。 「お呼びでしたか?」 「おねえさん、暇?」 「はい?」 「ちょっとお喋りしようよ」 「いえ、申し訳ありませんが、業務中ですので……」 稀にあることだけれど、平日に起きるのは珍しい。 だいたい週末に起こることだから、こうして一人の時間に絡まれることはめったにない。 いつも亜貴が助けに入ってくれている。そういうところばかりが見えてしまって、どうして亜貴のことを嫌いになれないのだろう。 亜貴の嫌いなところをたくさん探して、呆れてしまいたい。
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