机下で触れる指先

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「こずえ、」 帰路を踏んで、二人で歩いている。 ラストの締め作業を終えて店を出たら、時刻はすでに3時に差し掛かってしまっていた。 後ろから、亜貴の声が聞こえているのを無視して早歩きしている。どうせ、そんな悪あがきは、亜貴には通用しないけれど。 「こずえ、ごめんって」 どうしてそんなに、可愛らしい声が出るのかなあ。 さっきあんなにも厳しくて寒々しい声で酔っ払いを退治したのに。 亜貴を残して、ハラハラしながら1階で待っていたら、10分もしないうちに、青い顔をした酔っ払い2人組がすごすごと店から出て行ってしまった。 どんなふうに言ったら、あんなに怯えて帰るのだろう。 亜貴を怒らせてはいけないと思う。 大概怒らせるのは総司だ。私はいつも総司が優しく注意されているところばかりを見つめていたから、亜貴が、見ず知らずの悪意には、どこまでも冷たく突き放すことを知らないままでいた。 「こずえ、まって」 とうとう手を掴まれて、足が止まった。亜貴が触れてくれるだけで、私はすべてがとまってしまう。知らずに潜めた息を継いで、俯いている。 「こわかった?」 亜貴の指先は、どこまでも優しい。私が少しでも嫌がったら、簡単に離れてしまう。あの男性客を掴んだ指先なんかには比べられない。
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