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拒絶したら、あっけなく離れてしまう。だから、私を掴む指先の奇跡を、じっと見つめてしまうのだ。
「俺が怖い?」
「ちがうよ」
そんなことに拗ねているわけじゃない。
俯いた顔をあげて、亜貴が眉を下げているのが見えた。目が合って、亜貴にもう一度名前を呼ばれる。あと何度その奇跡を数えていられるのだろう。
「亜貴一人で、男の人二人相手にしようとするから」
「うん?」
「酔っ払った人、何するかわかんないじゃん」
「うん」
「いやなの、亜貴が、傷つくの」
「……反省します」
どうせ自分では、どうにもできなかっただろう。それくらい、知っている。だから、こんなふうに拗ねたって、きっと亜貴は、同じことが起こることがあれば、今日と同じように、私をかばうのだと思う。
「亜貴が傷つけられるようなことは、怖いから。あんまり真っ向からやらないでね」
「うん、ごめん。ちょっとむかついてた」
「かなり怒ってたように見えた」
「うわ、バレた?」
「目がツンドラ」
「それ、総司の真似でしょ」
総司は私のいないところで怒られたと報告してくるたびに「目がツンドラだった」と言っていた。亜貴にも知られていたらしい。笑ってしまった。
亜貴も同じように笑っている。深夜3時の夏に笑われて、触れる亜貴の指先に意味を見出そうとしている。
「こずえのこと、呼び捨てにするから」
「うん?」
「あの男。梢に勝手に触って、勝手に呼び捨てにするから、むっとしちゃった」
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