4030人が本棚に入れています
本棚に追加
/442ページ
ごめんね、って言いながら、あのときあの男が触れた手首を、亜貴が撫でる。その感触だけで目が回ってしまいそうだった。
「なにそれ、嫉妬みたいだよ」
「あ、ほんとうだ。男の嫉妬、見苦しいなぁ」
本当に嫉妬してくれたのなら、どれだけ良いだろう。目を見て、亜貴が笑っているのを確認している。冗談だとわかってしまうから、なおさら苦しい。
「はは、亜貴って嫉妬なんか、するの?」
「え? なにそれ。現在進行形で、してるのに?」
「亜貴だっていつでも触れるし、呼び捨てだよ?」
ままごとみたいな掛け合いだ。亜貴が笑って、首を傾げた。
「俺だって大切に触って、何よりも大事に呼んでるのに、突然出てきた誰かに権利を侵害されるなんて許せないでしょ」
「なんか、法学部っぽい感じの言い方」
「それは梢も一緒でしょ」
おかしそうに笑っていた。愛するふりが上手な人だ。耐えられずに茶化していた。亜貴は全力で、恋人のようなままごとに取り組んでいる。
曖昧に触れる指先に壊れてしまいそうになる。
「俺以外に触らせちゃだめだよ」
「あき」
「梢のことだと、感情のコントロール、かなり下手になるの」
「もう、亜貴は言い方がいちいちずるい」
最初のコメントを投稿しよう!